
研削加工の表面粗さが粗くなる要因は?|ウェットエッチングなら解決できます
2025.01.19
金属の除去加工のうち、研削加工は金属を所定の形状に加工でき、さらには表面を整える効果も持ち合わせる方法です。そのため、高精度の表面粗さが必要な場合に研削加工が使用されています。しかしながら、研削加工で表面粗さが粗くなってしまうことがあり、これは様々な不具合の要因です。この記事では、研削加工の表面粗さが粗くなると起こる不具合やその原因および対処法を解説します。また、研削加工とぜひ比較していただきたいウェットエッチングについても解説します。研削加工の表面粗さが粗くなるとお悩みの皆様のお役に立てば幸いです。ぜひご一読ください。
表面粗さから見る研削加工と切削加工
金属の除去加工としては、切削加工・研削加工・研磨加工の3つが一般的な方法です。
簡単に解説すると、切削加工は刃物を用いて金属である被加工物(ワーク)を削り取る加工方法です。刃物もしくはワークを回転させてワーク表面を削り取って加工します。これに対し、研削加工は砥石を用いてワークを削り取ります。砥石を使用しているため、ワークである金属表面を整える効果も持ち合わせる加工方法です。
切削加工と研削加工は、それ単体でワークである金属の形状加工をおこなうことが可能です。また、切削加工によりある程度の形状加工を施したのちに研削加工で表面を整える方法もよく使用されます。
最後に研磨加工は、砥石のほか、研磨剤や綿やフェルトなどの布、研磨剤の入ったコンパウンドを使って金属であるワークを除去する方法です。そのため、研磨加工は金属の形状加工というよりも表面を整えて光沢を出す方法として使用されます。
表面の粗さを見ると、切削加工が一番粗く、研削加工が二番目、研磨加工が最も細かくなります。
表面粗さとは
さきほど述べた表面の粗さ、すなわち加工面の状態(凸凹具合)は表面粗さという指標で表されます。表面粗さは、面粗度と呼ばれることもあり、JIS B0601やISO25178にて規格化されている指標です。表面粗さでは平均値である「算術平均粗さ(Ra)」と、大きい山と深い谷の差から算出する「最大高さ粗さ(Rz)」が一般的です。このほかにも用途に応じた粗さパラメータが多数存在します。
算術平均粗さ(Ra)は、粗さを表す指標として最も多く使用されるパラメータです。測定面の深さ方向の基準となる中心線から上となる凸部分の面積と下となる凹部分の面の合計を基準長さで割って算出されます。すなわち、凹凸の面積を平均化した数値です。平均値であることから表面に生じた局所的なキズの影響を受けにくい数値になります。
最大高さ粗さ(Rz)は、測定面の深さ方向の基準となる中心線から最も大きい凸部(Rp)と、最も低い(深い)凹部(Rv)の合計値です。測定する面の位置によっては大きな傷がある可能性もあります。最大高さ粗さ(Rz)はこのようなキズの影響を受けやすいため、一箇所でもキズがあると問題となる製品の評価に使用されます。
研削加工の表面粗さ
切削加工と研削加工においても表面粗さは重要なパラメーターです。どちらの方法を選択するかは表面粗さによって決めることが多く、高精度の面粗さ(Ra0.4以下など)は、研削加工をおこなうことが多くなります。
表面粗さが粗いと起こる不具合
表面粗さが粗いと以下のような不具合が生じます。
- 接触面の摩擦が増える
- 気密性や接着性が低下する
- 質感が悪くなる
- 駆動時の騒音や振動が増える
順番に解説します。
接触面の摩擦が増える
製品の表面粗さにより製品同士の接触面の摩擦が変わります。表面粗さが粗くなれば摩擦が増えます。これは、製品表面の破損や表面間の熱の発生など製品の品質や製品寿命を大きく左右する現象の原因です。一方で表面粗さが細かすぎても製品間が滑りすぎて駆動性能や品質に影響を及ぼすことがあります。そのため、製品に応じて適正な表面粗さにコントロールすることが必要です。
気密性や接着性が低下する
製品の表面粗さが粗くなると、当然のことながら製品と他の製品の間の密着面積が小さくなります。気体が漏れる穴が増えてしまい、気密性が必要な製品では気密性の低下の原因です。また、接着面として使う場合は、接着剤の塗布量が凹凸によって部分ごとに異なるという現象が起こります。すなわち、面の位置ごとに接着強度が変わってしまい、接着強度の低下を引き起こします。
質感が悪くなる
製品の表面粗さが粗くなることは、表面の滑らかさを損なう要因です。表面粗さが細かいということは表面の凸凹が小さいということであり、表面の滑らかさが向上し質感がよくなります。反対に表面粗さが粗いということは表面の凸凹が大きいということになり、表面の滑らかさは低くなり質感が低下します。もちろん、製品に応じて質感を調整することは重要です。
駆動時の騒音や振動が増える
製品の表面粗さが粗くなると、最初に述べたように製品同士の接触面の摩擦が増えます。すると、製品同士が摺動する場合などはガタツキが増え、駆動時の騒音や振動が増えます。装置内の部品の騒音は作業環境に悪影響を及ぼす要因です。駆動時の振動は装置全体にも伝わり、部品の製品寿命だけでなく装置の製品寿命にも大きな影響を及ぼします。したがって、製品ごとに許容できる駆動時の騒音や振動となるような表面粗さに調整することが重要です。
表面粗さが粗くなる原因および対処法
続いて、表面粗さが粗くなる要因と対処法について解説します。
表面粗さが粗くなる要因としては、以下のようなものが挙げられます。
- ホイールバランスの不良
- ホイールの周速度が遅い
- 研削時の送り速度が速い
- 切込み量が大きい
- クーラントの不良
- 砥粒の粒度が粗い
順番に解説します。
ホイールバランスの不良およびホイールの周速度が遅い
砥石を装着した金属板をホイールといいます。研削加工では、ホイールを回転させながら金属であるワークに当て金属を除去します。このホイールの静的バランスが悪いと想定しているように研削加工ができません。その結果、表面粗さが粗くなることがあります。また、周速度が遅すぎることも加工面の表面粗さが粗くなる原因です。すなわち、表面粗さを良好にするには、ホイールのバランスを取り、適切な周速度に設定する必要があります。
研削時の送り速度が速いまたは切込み量が大きい
研削時の送り速度が大きいことや切込み量が大きいことは、製品表面への負担増大の要因です。両者とも加工速度を速めることができますが、送り速度が速いと摩擦とともに発熱を引き起こします。大きな切込み量も発熱を増加させる可能性があります。これらも製品の表面粗さを粗くしてしまう要因です。すなわち、表面粗さを良好にするには、研削時の送り速度や切込み量を適切に設定する必要があります。
クーラントの不良
クーラントの条件も表面粗さを大きく左右する要因です。例えば、クーラントの種類が製品や研削加工に合っていない、クーラント液を注ぐ場所が悪いなどの条件下では、研削位置を十分に冷却することができず表面粗さが粗くなります。また、研削位置に直接供給されるクーラント液に不純物が多く含まれていると表面粗さが粗くなります。この場合は、クーラントろ過装置の改善が必要です。
砥粒の粒度が粗い
使用している砥石の砥粒の粒度が粗いことも表面粗さが粗くなる要因です。製品の材質や求められる表面粗さに応じた砥粒の砥石の選定が必要です。
すなわち、研削加工の表面粗さを適切に保つには、上記のような様々な問題を解決しなくてはならず、手間や時間および工数やコストが必要です。これらは製品の価格に反映せざるを得ません。
研削加工では複数回の処理が必要
研削加工において、表面粗さを確保するには上記のような問題が起こらないようにする必要があります。ただし、研削加工を1回おこなえば高精度の表面粗さ(Ra0.4以下など)を達成できるわけではありません。実際の加工においては、1回の加工だけでなく3段階に分けて少しずつ表面粗さを整えています。その分、手間と時間、コストがかかります。
研削加工の表面粗さの確保に伴うデメリット
さきほど述べたように、研削加工で表面粗さを確保するには様々な条件をシビアに管理し、問題が起こらないようにしなくてはなりません。工具や装置の管理だけでなく、加工速度などもシビアに設定しなくてはならず、多くの手間と時間がかかります。
さらには高精度の表面粗さを達成するには、3段階程度に分けて段階的な加工をおこなわなくてはなりません。条件の管理、複数回の段階的加工には多くの手間と時間がかかり、生産速度や効率の低下を招きます。また、条件の管理や段階的な加工にはコストもかかり、生産コストも高くなります。
表面粗さを保つにはウェットエッチングがおすすめ
研削加工では表面粗さを保つために様々な条件をシビアにコントロールし、複数回の段階的加工をおこなっています。これに対しウェットエッチングでは、金属を化学的に溶解して加工するため表面が荒れることはありません。すなわち、金属板の表面粗さをそのまま保つことができます。そのため、ウェットエッチングによる表面粗さは、研削加工による高精度表面粗さよりも小さくなります。
ウェットエッチングによる加工では表面粗さが小さいため、依頼元から逆に「今より粗くしてほしい」というリクエストもあるほどです。
次に、ウェットエッチングを工程に沿って詳しく解説します。
ウェットエッチングとは
ウェットエッチングは、金属が薬品に溶解する現象を利用したエッチング方法です。例えば金属板に丸い穴を開けたい場合は、穴を開ける部分以外を溶けないように保護します。そして、保護されていない露出している金属部分だけを溶解して穴を開けます。
詳しい工程は、以下の通りです。
- パターンフィルム(露光用原版)を作成する
パターンフィルムは、エッチング加工する金属板に保護膜を作成する際に被せるフィルムです。フィルムには、作成するパターンと同一の形状が作製されています。例えば、金属板に丸い穴を開けたい場合は、所定の位置に丸い穴パターンがあるフィルムを作成します。 - 金属板の準備・前処理をする
金属板表面をきれいにして後工程のフォトレジストの密着度を高めます。具体的には脱脂や酸洗および水洗などをおこない、金属板表面に付着している油分やほこりを取り除くとともに、金属板表面を活性化させます。 - 金属板の上にフォトレジストを成膜する
例えば、フィルム状のフォトレジストをラミネートしてフォトレジスト層を成膜します。 - パターンフィルム(露光用原版)をフォトレジストに被せる
- フォトレジストを露光させてパターンフィルムの形状を転写する
フォトレジストに光を当てると、パターン形状通りに露光されます。 - フォトレジストを現像する
現像すると、フォトレジストで覆われていない部分の金属面が露出します。 - 薬品で溶解する
金属板の露出している部分を薬品で溶解し、除去します。 - フォトレジストを除去する
金属板を保護していたフォトレジストを除去し、所定のパターンが形成された金属板を取り出します。 - パターンが形成された金属板を洗浄および乾燥する
金属板の洗浄・乾燥をおこなうとともに、品質検査を実施します。
以上のような工程を経てウェットエッチングによる加工がおこなわれます。
工程をみてわかるように、ウェットエッチングでは機械的な加工を施しません。そのため、研削加工のように表面粗さを担保するための条件をシビアにコントロールしなくてもよいといえます。
さらに、ウェットエッチングならば段階的な加工をおこなうことなく、一度の加工で高精度の表面粗さ(Ra0.4以下など)を達成できます。
ウェットエッチングで加工するメリット
これまで解説したようにウェットエッチングでは、研削加工のように条件をシビアにコントロールしたり、段階的な複数回の加工をおこなうことなく、一度の加工で高精度の表面粗さ(Ra0.4以下など)を達成できます。
ウェットエッチングで加工すれば、研削加工と比較して加工にかかる手間や時間を少なくし、工程を少なくすることが可能です。これにより研削加工よりも生産速度や効率を向上できます。また、上記のような作業や工程が不要であることから、生産コストを抑えることも可能です。
したがって、ウェットエッチングによる加工は、研削加工よりも生産コストが抑えられ、研削加工よりも納期が短いというケースも多くあります。
金属へのエッチング加工なら豊富な技術・経験を持つ株式会社ケミカルプリントへ
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まとめ
今回の記事では、研削加工における表面粗さが粗くなると起こる不都合、その原因と対処法について解説しました。研削加工で高精度の表面粗さを確保するには様々な条件をシビアにコントロールしたり、段階的な複数回の加工をおこなう必要があり、生産効率や速度の低下、製造コストの上昇につながります。
これに対し、化学的な手法で金属除去をおこなうウェットエッチングでは様々な条件を研削加工ほどシビアに管理することなく、高精度の表面粗さをもつ金属の除去加工が可能です。また、研削加工のように複数回の段階的加工をおこなわなくても、一度の加工で高精度の表面粗さを達成できます。そのため、高精度の表面粗さの加工を実施しても生産速度や生産効率の低下および生産コストの上昇も起こりません。
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