
エッチング加工でアルミニウムを加工|他の加工方法との違い・メリット・具体例も解説
2025.01.23
ほかの金属と比べて軽量で耐食性が高く、電気伝導性や熱伝導性が高いアルミニウムは様々な分野の製品に使用されています。アルミニウムやアルミ合金といった金属の除去加工の方法としては、切削加工やプレス加工のような機械的な加工が思い浮かぶでしょう。もちろん、機械的な加工が多用されているのは事実です。しかしながら、微細な製品や高精度な形状の加工、高精度の表面粗さが求められる加工の場合にはエッチング加工が非常に有用です。この記事では、汎用性の高いアルミニウムのウェットエッチングについて解説します。アルミニウムの加工方法としてウェットエッチングを検討されている方のお役に立てば幸いです。
アルミニウムはエッチング加工できる?
アルミニウムやアルミ合金は加工されて様々な製品として使用されています。アルミニウムやアルミ合金の一般的な加工方法としては、切削加工やプレス加工やレーザー加工などが挙げられます。この中でも、切削加工やレーザー加工は微細な加工をおこなう方法として好適です。アルミニウムは、これら機械的な加工以外に、化学的な加工であるウェットエッチングでも加工可能です。
ここで具体的な加工例をお見せします。
引用:https://www.chemical-print.co.jp/topics/20240529-01/
この例ではアルミ板に多数の微細な穴をウェットエッチングにより作製しています。これらの多数の穴は密集していますが、ウェットエッチングであれば穴同士が繋がることなく、正確に形成可能です。
アルミニウムとは
この章では、アルミニウムについて解説します。
アルミニウムの特徴
アルミニウムは様々な分野で使用されている金属です。アルミニウムの特徴には以下のようなものがあります。
- 比重が軽く他の金属よりも軽量である
- 耐食性に優れている
- 電気伝導率および熱伝導率が高い
- 非磁性である
- 反射率が高い
- リサイクル可能である
アルミニウムの比重は2.7です。鉄や銅と比較すると約1/3程度であり、非常に軽量です。また、アルミニウムは空気中の酸素で酸化して、表面に酸化皮膜を形成します。この酸化皮膜は、保護層としてアルミニウムの腐食を防止可能です。そのため、アルミニウムの耐食性は非常に高いものとなります。
アルミニウムは導電性が高く、同じ重さの銅の約2倍の電流を通電可能です。また、アルミニウムは鉄の約3倍の熱伝導率をもち、熱しやすく冷めやすい特徴も持ちます。さらに、アルミニウムは磁性を持たない非磁性体です。非磁性であることから、磁場の影響を排除するべき医療機器や船舶の磁気コンパスなどの素材として好適です。
アルミニウムには熱や光、電磁波を反射する特性があります。熱を反射する特性を生かして暖房器具の反射板や、光を反射する特性を生かして照明器具などにも好適な材料です。また、純度が高いほど光の反射率が高くなります。純度99.8%以上のアルミニウムは約90%以上の光を反射すると言われています。
アルミニウムは長期間使用しても劣化がほとんどないことも特徴です。さらには、融点が低いため、リサイクル時の溶融も非常に簡単です。
アルミニウムの用途
アルミニウムは様々な分野で使用されています。例えば、以下のような分野で使用されています。
分野 | 具定例 |
航空宇宙分野 |
機体構造部品:翼や胴体など エンジン部品:エンジンケースやタービンブレードなど |
自動車分野 |
ボディパネル エンジン部品:エンジンブロック・シリンダーヘッド・ピストンなど ホイール |
医療器具 |
医療機器のケースやハウジング 外科用器具:クランプ・ハンドル・ミラーなど |
船舶産業 |
船体構造部品 デッキ部品:デッキパネル・トリム部品など |
そのほか (エッチングが使用されるケース) |
腕時計の針 猟銃の銃身アルミ部の模様加工 ヒーター熱線 車のドア入口部分の社名堀り など |
これらの用途の中でも、航空機や自動車のエンジン部品、医療機器の部品などは軽くて耐腐食性が高いアルミニウムの性能を生かした製品になります。
アルミニウムの種類
製品に使用されているアルミニウムには種類があります。アルミニウムと総称されていますが、実際には様々な金属などが添加されているアルミニウム合金です。添加されているものによって番手が異なります。番手と特徴を解説します。
1000番シリーズ
1000番シリーズは、純度99.0%以上の純アルミニウムです。純アルミニウムであることから、導電性や熱伝導性、耐食性に優れています。しかし、強度が低いため、構造部品には向いていません。用途は、1円硬貨や反射板、照明器具など強度を必要としない物です。
2000番シリーズ
2000番シリーズは、アルミニウムに銅(Cu)を添加した合金です。「ジュラルミン」とも呼ばれます。銅を多く含むため、強度が高いことが特徴です。しかしながら、銅には酸化しやすいという面もあります。そのため、一般的なアルミニウム合金よりも耐食性は低くなります。高強度の2000番手のアルミニウムは、自動車部品や航空機部品、構造用部品などに好適です。
3000番シリーズ
3000番シリーズは、アルミニウムにマンガン(Mn)を添加しています。耐食性は純アルミニウムと同等である上、強度は純アルミニウムより高いという特徴を持ちます。このアルミニウムの主な用途は、アルミ缶や屋根材、パネルなどの建築材などです。
4000番シリーズ
4000番シリーズは、アルミニウムにシリコン(Si)を添加した合金です。シリコンの特性が生かされており、高い耐熱性や耐摩耗性を持ちます。ただし、他のアルミニウム合金よりも融点が低いため、溶加材やろう材が主な使用用途です。
5000番シリーズ
5000番シリーズは、アルミニウムにマグネシウム(Mg)を添加しています。高い耐食性や高い強度を持ち合わせています。高い加工性も持つため、アルミニウムの切削加工材料として最も一般的と言えるでしょう。自動車や船舶の部品など、強度が求められる場合に使用されます。
6000番シリーズ
6000番シリーズは、アルミニウムにマグネシウム(Mg)とシリコン(Si)が添加された合金です。5000番シリーズよりも高い耐食性や高い強度を持ちます。押出加工性も良好で、Lアングルやチャンネルといった型材に好適です。
7000番シリーズ
7000番シリーズでは、アルミニウムに亜鉛(Zn)とマグネシウム(Mg)を添加しています。熱処理を施すと、さらに強度が高くなります。アルミニウム合金の中ではもっとも強度が高いと言えるでしょう。強度と耐久性が高いことから、自動車や航空機の部品のほか、自動車部品のほか、スポーツ用具類などにも好適です。
アルミニウムを加工するには?
この章ではアルミニウムの加工方法について解説します
アルミニウムの加工方法
アルミニウムの一般的な加工方法としては、以下の方法が挙げられます。
・プレス加工
・レーザー加工
・切削加工
・ウェットエッチング
順番に解説します。
プレス加工
プレス加工はその名の通り、プレスにより金属加工物(ワーク)を曲げたり切断したりする加工方法です。切断の際に所定の型どおりの金型を利用して所定の形にくり抜くことも可能です。
レーザー加工
レーザー加工は、レーザー光によってワークを融解させて穴あけや切断をする加工方法です。レーザー光を調整すれば彫刻のように彫りを施すことも可能です。レーザー光で加工することから繊細な加工が行えます。切断箇所などのバリやワークが反ってしまうことが少ないのも特徴です。
切削加工
切削加工は、ワークを刃物で削りとって穴をあけたり所定の形状に加工する方法です。刃物もしくは加工物のどちらかを回転させ、相対的に刃物がワーク上を移動するようにしてワーク表面を削り取ります。
ウェットエッチング
ウェットエッチングは金属が薬品で化学的に溶解される現象を利用して加工をおこなう加工方法です。溶解する部分を決めるマスキングの細かさで加工の画線を決められるため、非常に微細な加工が可能です。
加工方法の比較
これまで述べた加工方法の中で、微細加工をおこなう方法としては、ウェットエッチング、レーザー加工、切削加工が好適です。これらの特性を比較すると、以下の通りとなります。
ウェットエッチング | レーザー加工 | 切削加工 | |
コスト(少量生産) | ◎ | ◯ | 〇 |
コスト(大量生産) | ◯ | △ | △ |
納期(少量生産) | ◎ | ◯ | ◯ |
納期(大量生産) | ◯ | △ | △ |
量産性 | △ | △ | △ |
イニシャルコスト | ◯(安価) | ◎(不要) | ◯(安価) |
バリ・歪みの発生頻度 | ◯ | △ | △ |
微細・多穴加工 | ◯ | ◯ | ◯ |
極薄材 | ◎ | △ | ☓ |
各加工は、このような特性を持ちます。ただし、アルミニウムは反射率が高いため、レーザー加工のレーザーを反射してしまうことがあり、装置を破損するおそれもあります。また、アルミニウムは柔らかい金属であり、切削性が高いため切削加工が可能です。しかしながら、溶融点が低いため、工具との溶着に注意する必要があります。さらには、アルミニウムは柔らかい分伸びやすいため、切削加工時にバリが生じます。そのため、加工後にバリ取り作業が必要です。つまり、作業者の技術力が必要です。
これに対し、ウェットエッチングは機械的な加工をおこなわないので上記のような問題が生じません。続いて、ウェットエッチングの工程について詳しく解説します。
ウェットエッチングとは
ウェットエッチングは、金属が薬品に溶解する現象を利用したエッチング方法です。例えば金属板に丸い穴を開けたい場合は、穴を開ける部分以外を溶けないように保護します。そして、保護されていない露出している金属部分だけを溶解して穴を開けます。
詳しい工程は、以下の通りです。
- パターンフィルム(露光用原版)を作成する
パターンフィルムは、エッチング加工する金属板に保護膜を作成する際に被せるフィルムです。フィルムには、作成するパターンと同一の形状が作製されています。例えば、金属板に丸い穴を開けたい場合は、所定の位置に丸い穴パターンがあるフィルムを作成します。 - 金属板の準備・前処理をする
金属板表面をきれいにして後工程のフォトレジストの密着度を高めます。
具体的には脱脂や酸洗および水洗などをおこない、金属板表面に付着している油分やほこりを取り除くとともに、金属板表面を活性化させます。 - 金属板の上にフォトレジストを成膜する
例えば、フィルム状のフォトレジストをラミネートしてフォトレジスト層を成膜します。 - パターンフィルム(露光用原版)をフォトレジストに被せる
- フォトレジストを露光させてパターンフィルムの形状を転写する
フォトレジストに光を当てると、パターン形状通りに露光されます。 - フォトレジストを現像する
現像すると、フォトレジストで覆われていない部分の金属面が露出します。 - 薬品で溶解する
金属板の露出している部分を薬品で溶解し、除去します。 - フォトレジストを除去する
金属板を保護していたフォトレジストを除去し、所定のパターンが形成された金属板を取り出します。 - パターンが形成された金属板を洗浄および乾燥する
金属板の洗浄・乾燥をおこなうとともに、品質検査を実施します。
以上のような工程を経てウェットエッチングによる加工がおこなわれます。
工程をみてわかるように、ウェットエッチングでは機械的な加工を施しません。そのため、レーザー加工や切削加工のような不都合は生じません。
アルミニウムのエッチング加工の具体例
この章では、アルミニウムのエッチング加工の具体例を3つ解説します。
アルミニウムのエッチング加工の具体例その1
この例では、アルミニウムの板にウェットエッチングにより穴あけ加工をおこなっています。
以下に製品の写真と図面の写真を紹介します。
図面はこちらです。
この例のデータは以下の通りです。
- 材質 アルミニウム
- 板厚 0.1ミリ
- 穴径 φ0.47ミリ
- 個数 121個
このように、厚さの薄いアルミニウムに微細な直径の穴を多数加工することが可能です。これらの多数の穴は密集していますが、ウェットエッチングであれば穴同士が繋がることなく、正確に形成できます。
切削加工では、内径にバリなど生じ、バリ取りの工程も必要です。これに対して、ウェットエッチングで加工すれば、バリなどを生じることなく密接した微細な穴を多数作製できます。もちろん、バリ取りなどの工程も不要で、製造工程も少なくできます。
アルミニウムやアルミ合金に小さい穴を開けることは非常に難しく、綺麗な穴を成形するのは非常に困難です。汎用性の高いステンレスより難しいと言われています。しかし、この例のようにウェットエッチングで加工すれば、穴の内部にバリのような余分な部分が生じることはなく、綺麗な穴を形成可能です。
引用:https://www.chemical-print.co.jp/topics/20240529-01/
アルミニウムのエッチング加工の具体例その2
この例では、リング状の部品をエッチングにより製造しています。部品間が独立しているブリッジレス加工の例です。
図面はこちらです。
この例のデータは以下の通りです。
- 材質 アルミニウム
- 板厚 0.05ミリ
- 内径 φ2.2ミリ
- 外径 φ4.0ミリ
この例では、厚さの薄いアルミニウムをエッチングにより切り抜いて個々のリングを独立して形成するブリッジレス加工をおこなっています。ブリッジがないため、切り離しのあとがなく、寸法公差の厳しい製品に向いています。ブリッジレス加工は、切り離しの必要がないため、バリなどが起きず、製造工程も少なくでき生産速度や生産効率の向上が可能です。
引用:https://www.chemical-print.co.jp/topics/20240613-01/
アルミニウムのエッチング加工の具体例その3
この例ではウェットエッチングによりアルミニウムを格子状に加工しています。
以下に製品の写真と図面の写真を紹介します。
図面はこちらです。
この例のデータは以下の通りです。
- 材質 アルミニウム
- 板厚 0.05ミリ
- 格子 5ミリ角
- 線幅 0.3ミリ
この例では、厚さの薄いアルミニウムをウェットエッチングして格子状に加工しています。ウェットエッチングで加工すれば、格子の大きさや線幅を正確に反映した格子状部材を製造可能です。同じ製品をほかの加工方法で作製すると格子の線にバリなどが生じますが、ウェットエッチングであればバリなども生じません。そのため、製造工程も少なくでき生産速度や生産効率の向上が可能です。
引用:https://www.chemical-print.co.jp/topics/20240606-01/
アルミニウムのエッチング加工なら豊富な技術・経験を持つ株式会社ケミカルプリントへ
アルミニウムの精密加工をご検討の方、ウェットエッチングでの加工を検討なさってみてはいかがでしょう?
株式会社ケミカルプリントは、60年にわたりエッチング加工をはじめとした金属加工に向き合っています。60年の間に様々な用途や品質基準をクリアしてお客様のご要望に応えてきました。経験に裏打ちされた技術・経験や実績は、きっとお客様のお役に立つことでしょう。
株式会社ケミカルプリントは、微細・極小・極薄製品の加工を得意としています。特に5ミクロン厚の極薄製品や、0.1mm未満の穴あけ加工など加工限界を狙ったエッチングを高精度で提供しているのが特徴です。
経験豊富であることから、加工方法についても知識や技術を多く持ち、オーダーされた方法以外の方法を提案する提案力も持っています。実際の加工も熟練したスタッフが高い技術力で効率的におこない、お客様にご満足頂けると思います。
まとめ
今回の記事では、アルミニウムの特性、加工方法としてウエットエッチングを利用できることを解説してきました。微細な製品や高精度な形状の加工、高精度の表面粗さが求められる加工の場合にはエッチング加工が非常に有用です。具体例もお見せしましたので、ご納得いただけたと思います。
アルミニウムの精密加工にお悩みの方、一度ウェットエッチングでの加工をご検討頂いてはいかがでしょう?
その際には、60年にわたってエッチング加工をおこなってきた信頼のおける株式会社ケミカルプリントに相談してみてください。きっと、あなたのご期待に応えられると思います。